その確定申告、無料で終わるかもしれません ― 6つの方法と、自分でやると損をする分かれ目
結論を先に3行で
- 確定申告は、条件が合えばお金をかけずに終わります。国税庁の作成コーナーで作って送る、青色申告会や税務署の記帳指導で教わる、といった手段が実際に用意されています
- ただし無料で済むのは「計算の仕方が決まっている」場合だけです。どちらを選ぶかで税額そのものが変わる場面(消費税の特例の選び方、所得の区分、初年度の減価償却の決め方)は、無料の窓口では踏み込んでもらえません
- 作成コーナーは帳簿を作りません。申告書が無料で作れることと、その根拠を7年間出せる状態にしておくことは別の話です。特に消費税は、帳簿と請求書等の保存そのものが差し引きの条件になっています
- 令和8年分(2026年分)は、個人事業者がインボイスの2割特例を使える最後の年です。令和9年分からは3割特例に変わり、納める消費税が増えます
この記事は前半が「自分でやるための手引き」、後半が「自分でやると損をするかもしれない場面の一覧」です。前半だけ読んで自分で終わらせていただいて構いません。
なお、この記事は個人(個人事業主・副業)の話です。法人は前提がまるごと変わるので、その理由は後半の「法人にするタイミング」に書きました。
税理士がこんなことを書いていいのか
自分でも少し思います。確定申告を無料で済ませる方法を、税理士が丁寧に書くわけですから。
ただ、料金の案内だけを見て「頼むほどではない気がするけれど、自分でできる自信もない」というところで止まってしまう方が、けっこういらっしゃるように思います。ここがいちばんもったいないところです。やってみれば案外あっさり終わる方もいれば、最初から人に任せたほうが早い方もいて、どちらなのかは調べれば分かることだからです。
なので、無料でできる方法は出し惜しみせずに書きます。中途半端に書けば「結局は宣伝か」と読まれて、どちらの方の役にも立ちません。使える手段を、限界まで含めて全部並べます。
下心はあります。後半まで読んで「自分のケースは無理そうだ」と思われた方にご相談いただけたら、こちらとしても話が早いです。ですが前半で足りる方は、そのまま自分で終わらせてください。そのほうが安く済みますし、来年からもご自身で回せます。
無料でできる方法は、大きく6つあります
1. 国税庁「確定申告書等作成コーナー」
いちばんの本命です。画面の案内に沿って金額を入れていくと、申告書と青色申告決算書・収支内訳書ができあがり、そのまま e-Tax(国税庁の電子申告システム)で送信まで終わります。利用料はかかりません。
対応しているのは、事業所得・不動産所得・業務に係る雑所得のある方で、青色申告決算書や収支内訳書を作る場合です。副業で得た収入も、この範囲に入ることがほとんどです。
つまずきやすいところ。 本人確認です。ここが去年までと変わっているので、先に書きます。
作成コーナーから e-Tax で送るための本人確認には、マイナンバーカードを使う方法(マイナンバーカード方式)と、税務署で本人確認を受けて発行してもらったIDを使う方法(ID・パスワード方式)の2つがありました。
このうちID・パスワード方式は、令和7年10月1日から新規発行が止まっています。マイナンバーカードが普及するまでの暫定的な仕組みという位置づけだったもので、保有率が約8割になったことを受けた措置です(「デジタル社会の実現に向けた重点計画」令和7年6月13日閣議決定)。
| いまの状況 | 令和8年分(今回)の申告 | この先 |
|---|---|---|
| これから初めて e-Tax を使う | マイナンバーカード方式のみ。IDは新しく発行してもらえない | 同じ |
| すでにID・パスワード方式の届出をしている | 引き続き使える | 令和9年分の確定申告からは使えなくなる予定。マイナンバーカード方式への切り替えが要る |
つまり、カードを持っていない方は、まずカードの取得から始まります。申請してから手元に届くまで時間がかかるので、申告期に入ってから動くと間に合いません。年内に申請しておくのが安全です。
カードがあれば、スマホのマイナンバーカード機能を使うことでカード自体を読み取らせる操作も不要になります。iPhone でもこの方法が使えるようになりました(令和8年1月から)。
なお、e-Tax にログインするための利用者識別番号(16桁の番号)そのものは、引き続き新しく取ることができます。止まったのは「ID・パスワード方式で使うID・パスワード」の発行です。
限界。 作成コーナーは「入れた数字で計算する」道具です。その数字が正しいか、選んだ区分が有利かどうかは判定してくれません。後半で挙げる分かれ目は、作成コーナーの守備範囲の外にあります。
そしてもう1つ、見落とすと青色申告そのものが崩れる限界があります。項を分けます。
作成コーナーは、帳簿を作ってくれません
ここは誤解されやすいところです。
作成コーナーで作れるのは申告書と、青色申告決算書・収支内訳書です。日々の帳簿はできません。作成コーナーに入れるのは、すでに集計が終わった1年分の数字です。つまり帳簿は別のところで自分で作り、自分で保存しておく必要があります。
そして、この帳簿の保存は青色申告だけの話ではありません。国税庁の資料は次のように書いています。
個人で事業や不動産貸付け等を行う全ての方(所得税及び復興特別所得税の申告の必要がない方も含みます。)は、記帳と帳簿書類の保存義務があります。
保存する期間はこう決まっています。
| 保存が必要なもの | 期間 | |
|---|---|---|
| 青色・帳簿 | 仕訳帳、総勘定元帳、現金出納帳、売掛帳、買掛帳、経費帳、固定資産台帳など | 7年 |
| 青色・決算関係書類 | 損益計算書、貸借対照表、棚卸表など | 7年 |
| 青色・現金預金取引等関係書類 | 領収書、小切手控、預金通帳、借用証など | 7年(※) |
| 青色・その他の書類 | 請求書、見積書、契約書、納品書、送り状など | 5年 |
| 白色・法定帳簿 | 収入金額や必要経費を記載した帳簿 | 7年 |
| 白色・任意帳簿/書類 | 上記以外の帳簿、棚卸表、請求書・領収書など | 5年 |
※ 前々年分の事業所得と不動産所得の金額が300万円以下の方は5年です。
では会計ソフトが必須かというと、そうではありません。記帳は「一つ一つの取引ごとではなく日々の合計金額をまとめて記載するなど、簡易な方法で記載してもよい」とされています。手書きの帳簿でも、表計算ソフトでも、要件を満たせば構いません。
ただし、青色申告特別控除を65万円または55万円にしたい場合は話が変わります。この2つは複式簿記による記帳が前提で、仕訳帳と総勘定元帳が要ります。これを手書きで1年分回すのは、現実には相当きついはずです。65万円を狙うなら、会計ソフトを使うか、青色申告会や記帳指導で組み立ててもらうか、どちらかが事実上の前提になります。逆に10万円の控除でよいなら、簡易な帳簿でも届きます。
もう1つ、会計ソフトの有無と関係なく全員にかかる義務があります。メールやWebサイトで受け取った請求書・領収書などの電子データは、原則としてその電子データのまま、一定の要件の下で保存する必要があります。紙に印刷しただけでは要件を満たしません。
そして、ここを軽く見ないほうがいい理由があります。
売上げに関する帳簿を保存していなかったことや、帳簿の売上げについての記載が不十分なことが税務調査において把握された場合は、加算税が重くなることがあります。
「申告書は出したが、その裏づけの帳簿がない」という状態がいちばん危ういということです。作成コーナーだけで完結したつもりになると、まさにこの状態になります。
2. 青色申告会
地域ごとにある団体で、記帳のやり方から決算、申告まで面倒を見てくれます。会計ソフトの使い方を教わることもできます。
正直に書くと、完全な無料ではありません。年会費がかかります。金額は地域によって差があり、年に数千円から数万円というのが実際のところなので、お住まいの地域の会に直接聞いてください。
とはいえ、その金額で記帳・決算・申告の個別指導と説明会がついてくるので、費用対効果は手段の中でいちばん高い部類です。税理士に頼むより桁がひとつ小さく、作成コーナーを一人で触るより心細さがありません。
向いている人。 帳簿のつけ方そのものが分からない方、毎年つまずくところが同じ方。向いていない人。 消費税の申告が絡む方、複数の事業を抱えている方。会の指導範囲を超えます。
3. 税務署の記帳指導
税務署が無料でやっている指導です。事業所得・不動産所得・山林所得を生む業務を行っている方であれば対象になります。4〜5回程度にわたって、記帳の仕方から決算、e-Tax での申告までを見てもらえます。
会計ソフトを使う方向けのコースと、手書きの帳簿を使う方向けのコースが用意されています。申し込みは最寄りの税務署の所得税担当へ電話します。
つまずきやすいところ。募集の時期が決まっていて、通年ではありません。開業して最初の年に使うのがいちばん効きます。申告期の直前に思い出しても間に合いません。
4. 税理士会の無料相談
税理士会が、確定申告の時期を中心に無料の申告相談を開いています。
ここは対象がはっきり決まっています。小規模な納税者のために開設されているもので、東京税理士会は「所得金額が相当高額な方及び所得計算等が複雑な方」は税務署の申告書作成会場を使うか、有料で税理士に相談してほしい、と明記しています。
つまりこの記事の後半に当てはまる方は、そもそも無料相談の対象から外れます。行ってから断られるより、先に知っておいたほうが時間を無駄にしません。
5. 会計ソフトの無料プラン・体験期間
各社が無料プランや一定期間の体験を用意しています。どのソフトがいいかはここでは書きません。うちは複数のソフトを扱う立場なので、名指しで薦めると中立でなくなります。
判断の材料だけ書いておきます。無料プランは「機能が制限されたもの」と「期間が区切られたもの」の2種類があります。期間で区切られているタイプは、申告期をまたいで期限が切れると、いちばん忙しい時期にデータを見られなくなります。申し込む前に、どちらのタイプかだけは確認してください。
6. そもそも申告が要らないケース
見落とされがちですが、これも立派な選択肢です。
会社の年末調整が済んでいる給与所得者で、副業などの所得が20万円以下であれば、所得税の確定申告は原則として要りません(所得税法121条)。
ただし、ここには全国的に有名な落とし穴があります。
所得税の申告が要らなくても、住民税の申告は別途必要です。
地方税には「20万円以下なら申告不要」という決まりがないためです。所得税の確定申告をすれば、その情報が税務署から市区町村へ流れるので住民税の申告は要りません。しかし所得税の申告をしなかった場合は、市区町村に自分で申告する必要があります。
さらに例外があります。次に当てはまる方は、副業の所得が20万円以下でも申告に含める必要があります。
- 給与収入が2,000万円を超える方
- 医療費控除やふるさと納税(ワンストップ特例を使わない場合)、住宅ローン控除などで、どのみち確定申告をする方
2つ目は特に多いです。医療費控除のために確定申告をするなら、20万円以下の副業所得もそこに載せなければなりません。「20万円以下だから書かなくていい」と切り離すことはできません。
6つの手段の使い分け
| 手段 | 費用 | 向いている場面 | 限界 |
|---|---|---|---|
| 作成コーナー | 無料 | 数字が固まっていて、入力するだけの状態 | 帳簿は作らない。有利不利の判定もしない |
| 青色申告会 | 年会費(地域差あり) | 帳簿のつけ方から教わりたい | 消費税・複数事業は範囲外 |
| 税務署の記帳指導 | 無料 | 開業初年度。募集時期に間に合う場合 | 通年ではない |
| 税理士会の無料相談 | 無料 | 小規模で、計算が複雑でない場合 | 所得が高額・計算が複雑だと対象外 |
| 会計ソフトの無料枠 | 無料〜 | 記帳を続ける仕組みが欲しい | 期間制限型は申告期に切れることがある |
| 申告しない | 無料 | 年末調整済み+副業所得20万円以下 | 住民税の申告は別に要る |
ここから先は、自分でやると税額そのものが変わります
後半です。「難しいから頼め」という話ではありません。判断の材料を並べるので、自分で判断できると思えたら自分でやってください。
分かれ目に共通しているのは、正解が1つに決まっていないことです。どちらを選んでもよく、選んだほうによって納める税金が変わる。作成コーナーも無料相談も、ここには踏み込みません。
消費税とインボイス(令和8年分は特別な年です)
いちばん動きがあるのがここです。
免税事業者だった方がインボイス発行事業者に登録して消費税を納めることになった場合、納付税額を売上にかかる消費税額の2割にできる特例(2割特例)があります。この2割特例が、令和8年9月30日までの日の属する課税期間で終わります。
代わりに、令和8年度の税制改正で3割特例が新しく作られました。個人事業者だけが対象で、令和9年分と令和10年分の消費税申告について、納付税額を売上にかかる消費税額の3割にできます。
個人事業者の場合、年ごとに次のように移ります。
| 年分 | 使える特例 |
|---|---|
| 令和8年分 | 2割特例 |
| 令和9年分 | 3割特例 |
| 令和10年分 | 3割特例 |
| 令和11年分 | どちらも使えない |
法人は3割特例の対象外です。12月決算の法人であれば、令和8年分が2割特例を使える最後の期で、令和9年分からはどちらも使えません。
3割特例を使うために事前の届出は要りません。確定申告書にその旨を付記するだけです。逆にいえば、付記を忘れると使えません。
数字にすると差が見えます。以下は仕組みを掴むための単純化した例で、そのままご自身のケースに当てはめないでください。
税込880万円の売上がある個人事業者(すべて税率10%、他に売上なし)を考えます。売上にかかる消費税額は80万円です。
| 年分 | 特例 | 納める消費税 |
|---|---|---|
| 令和8年分 | 2割特例 | 16万円 |
| 令和9年分 | 3割特例 | 24万円 |
同じ売上でも8万円増えます。そして令和11年分からはどちらの特例も使えなくなるので、原則の計算か簡易課税かを選ぶことになります。
ここに、期限が絡む話がもうひとつあります。簡易課税(売上から納税額を計算する簡便な方法)を選ぶには届出が要りますが、2割特例や3割特例を使った課税期間の翌課税期間については、その翌課税期間の確定申告期限までに届出書を出せば間に合うようになりました。通常は事前提出が必要な届出なので、これは例外的な扱いです。
この種の届出は、期限を1日過ぎると1年間取り返せません。税額が有利になるかどうか以前に、選択の機会そのものが消えます。無料の窓口で「どちらが有利ですか」と聞いても、判断してもらえる範囲を超えています。
消費税は、保存していること自体が差し引きの条件です
もうひとつ、消費税には所得税より直接的に効く仕組みがあります。
払った消費税を差し引く(仕入税額控除)ためには、課税仕入れの事実を記載した帳簿と、請求書等(インボイス)の両方を保存していることが条件になっています(消費税法30条、同条7項)。条文は「保存している場合に控除を認める」という組み立てです。保存していれば差し引ける、という順番で読んでください。
保存期間は、帳簿はその閉鎖の日から、請求書等は受領した日の属する課税期間の末日の翌日から2か月を経過した日から、いずれも7年間です(6年目と7年目はどちらか一方を保存すれば足ります)。所得税の側では5年でよい書類があっても、消費税の仕入税額控除のために保存すべき請求書等は7年です。ここは期間が違います。
これがいちばん効いてくるのが還付です。 輸出が中心の事業者のように、払った消費税のほうが多くて戻ってくる申告は、戻る金額の全部が「差し引ける」ことを前提に計算されています。保存が確認できない部分は、その前提が崩れます。戻ってこないだけでなく、いったん受け取った還付をあとから返すことになる場合もあります。
還付申告には手続きも足されます。控除不足による還付がある申告書には、「消費税の還付申告に関する明細書」の添付が必要です(消費税法施行規則22条3項。平成24年4月1日以後の申告から義務化)。何をいくらで仕入れ、何を輸出したのかを書き出す書類なので、帳簿と証憑が揃っていないと、そもそも書けません。
申告書を無料で作れることと、その計算の根拠を7年間いつでも出せる状態にしておくことは、別の話です。前半で書いた帳簿の話は、消費税では税額そのものに跳ね返ります。
越境EC・海外取引がある
- 海外に売った分の消費税(輸出免税)。証明する書類の保存が条件で、書類が足りないと免税になりません。令和8年10月1日からは、代金の受け取り方によって必要な書類が増えます。還付を受ける申告ほど、保存の有無が金額に直結します
- 外貨の換算。いつのレートで、どのレート(TTM・TTB・TTS)を使うか
- プラットフォームの手数料。海外の事業者に払う手数料を、消費税の計算上どう扱うか
いずれも「どう処理するか」の選択が入ります。
所得の種類が混ざっている
事業所得なのか雑所得なのかで、赤字が出たときに給与と相殺できるか(損益通算)が変わります。赤字を翌年以降に繰り越せるかも変わります。
副業を始めた1年目は経費が先行して赤字になりやすく、ここの区分が効いてきます。ただし「事業所得にすれば有利」という単純な話ではなく、帳簿を備え付けて記帳・保存しているかどうかが実質的な分かれ目になります。
法人にするタイミング
所得が増えてきたときに個人のままか法人にするかは、税金だけでは決まりません。社会保険料、役員報酬の決め方、消費税の免税期間の使い方、それに手間とコストが絡みます。判断を1年ずらすだけで結果が変わる類の話です。
そしてこの記事の趣旨からいうと、法人化にはもう1つ大きな意味があります。法人になった時点で、「自分で申告する」という選択肢が事実上なくなります。
理由は制度の作りにあります。
- 確定申告書等作成コーナーは、法人税を扱っていません。作成コーナーで作れるのは所得税・消費税・贈与税の申告書です。ここまで書いてきた「案内に沿って入れるだけ」の仕組みは、法人税には用意されていません
- 法人税を電子申告するには、国税庁の e-Taxソフト(無料)を使うことになります。ただしこれは必要な別表を自分で判断して選び、自分で作る道具です。どの別表が要るかを知っている前提で作られています
- 国税だけでは終わりません。法人は地方税(法人都道府県民税・法人事業税・法人市町村民税など)を eLTAX で別に申告します。複数の自治体に事業所があれば、その分だけ増えます
- 市販の法人税申告ソフトを使えば楽になりますが、個人向けの会計ソフトとは価格帯が違います。1期分の申告のために導入して見合うかは、よく計算してください
つまり、個人のうちは「自分でやる」が現実的な選択肢としてありますが、法人にした瞬間にそれが消えます。法人化を検討するときは、節税額だけでなく申告を外に出すコストが毎年固定で乗ることまで含めて比べてください。ここを入れずに計算すると、法人化のメリットが実際より大きく見えます。
初年度の選択が、翌年以降を縛るもの
- 減価償却の方法。10万円以上の設備をどう費用にしていくか
- 在庫の評価方法
- 青色申告特別控除を65万円にするかどうか
3つ目は要件がはっきりしています。複式簿記で記帳し、貸借対照表と損益計算書を付けて期限内に申告する、という従来の条件に加えて、e-Tax で申告書を送信するか、電子帳簿保存法の「優良な電子帳簿」の要件を満たして届出書を出しているか、のどちらかが必要です。紙で出すと65万円にはなりません。ここは自分で確認できる範囲です。
なお e-Tax を選ぶ場合、これから初めて使う方はマイナンバーカードが要ります(前半で書いたとおり、ID・パスワードの新規発行は止まっています)。カードの取得が65万円控除の前提になっている、という順番で捉えておいてください。
税務調査が来たとき
自分で申告した内容を、自分で説明できるかどうかです。申告を頼んでいなかった年の調査に、あとから税理士が入ることはできます。ただし、その時点で帳簿と証拠書類が揃っていないと打てる手が限られます。
よくある誤解
「無料の相談窓口でも、有利なほうを教えてもらえるはず」
聞けば一般的な説明はしてもらえます。ただしどちらを選ぶかの判断は、原則としてご自身の責任で行うことになります。税理士会の無料相談は対象範囲があらかじめ絞られていますし、税務署の相談は「正しく申告するための案内」であって、有利な選択肢を提示する場ではありません。
「税理士に頼めば税金が安くなる」
安くなるとは限りません。変わるのは、選択肢がある場面で選び損ねないことと、期限のある届出を落とさないことです。すでに選択の余地がない申告なら、誰が作っても税額は同じです。だからこそ、そういう方は自分でやったほうが得だと考えています。
「1年目は売上が小さいから、来年から考えればいい」
初年度に決めた減価償却の方法や、出しそびれた届出は、翌年以降に効いてきます。「来年から」が効かないのが、この分野の面倒なところです。
Q&A
Q. 自分で申告してみて、途中で無理だと分かったらどうなりますか。
正直に書きます。途中からのお引き受けは、簡単ではありません。
「記帳は進んでいるので、あとは申告書だけ」というご相談をいただくことがあります。ですが、こちらはその記帳が合っているかの確認から始めることになります。渡された数字をそのまま申告書に転記するわけにはいかないためです。そして経験上、確認するとどこかしら直すところが出てきます。勘定科目の使い方、家事按分、期ズレ、消費税の区分。どれか1つは、ほぼ必ず出ます。
つまり、途中からのお引き受けは「残りの作業だけ」ではなく、さかのぼって全部を見直す作業になります。しかも申告期限までの残り時間は短くなっている。この2つが重なるので、お引き受けできるのは次の2つを納得いただける場合に限られます。
- 金額が下がらないこと。通常はご事情を伺って条件を調整することもありますが、期限間際の駆け込みは調整の余地がありません。確認作業のほうが申告書の作成より大きくなるためです
- 期限に間に合わないかもしれないリスクを、ご自身で引き受けていただくこと。見直しの結果、期限内に出せる状態まで持っていけないことがあります。その場合の期限後申告や加算税は、こちらでは引き取れません
この2つが飲めないのであれば、うちに相談する時間がもったいないです。次のどちらかに動いたほうが早く終わります。
- 税務署の確定申告会場・申告相談を使う。申告期は相談窓口が増えます。「正しく出す」ことに絞れば、ここでたどり着けることは多いです
- 別の税理士を探す。日本税理士会連合会の税理士情報検索サイトで、地域や取扱業務から探せます。税理士会の納税者支援センターに相談して紹介を受けることもできます
いちばんいいのは、申告期に入る前に相談することです。11月や12月であれば、確認して直す時間も、期限に間に合わせる時間も残っています。同じ内容でも、2月に持ち込まれるのと11月に持ち込まれるのとでは、こちらができることがまったく違います。
Q. 去年は自分でやりました。今年もそれでいいですか。
去年と状況が変わっていなければ、たいていは大丈夫です。変わった点があるかどうかだけ見てください。インボイス登録をした、海外との取引が始まった、人を雇った、設備を買った、赤字になった。このどれかに当てはまるなら、去年と同じやり方では足りていない可能性があります。
Q. 期限はいつですか。
令和8年分(2026年分)の所得税の確定申告は、令和9年2月16日(火)から3月15日(月)までです。個人事業者の消費税の申告と納税は令和9年3月31日(水)までで、所得税より2週間ほど後ろにあります。なお、還付を受けるための申告(還付申告)は2月16日を待つ必要がなく、その年の翌年1月1日から5年間提出できます。
最後に
ここまで読んで「これなら自分でできそうだ」と思えたなら、そのまま自分でやってください。それがいちばん安く、来年以降もご自身で回せるようになります。この記事は、そのために書きました。
後半を読んで引っかかるところがあった方だけ、一度ご相談ください。判断が要る場所は、たいてい1年に1回か2回しか来ません。その1回のために毎月の顧問契約が要るとも限らないので、まずはどこが分かれ目なのかを一緒に見るところからで構いません。
参考(もとになった資料)
この記事の情報は 2026年8月29日時点のものです。税制は毎年変わるので、実際に手を動かす前に各リンク先で最新の内容をご確認ください。
- 確定申告書等作成コーナー|国税庁
- 確定申告特集|国税庁
- ID・パスワード方式について|e-Tax(令和9年分の確定申告からは利用できなくなる予定である旨の記載)
- 「確定申告書等作成コーナー」で利用するID・パスワードの新規発行停止について(PDF)|国税庁(令和7年9月25日/令和7年10月14日更新)
- 税理士情報検索サイト|日本税理士会連合会
- 個人で事業を行っている方の記帳・帳簿等の保存について(記帳指導の案内を含む)|国税庁
- 帳簿の記帳・保存義務(記帳・帳簿等の保存制度)(PDF)|国税庁(保存すべき帳簿・書類と保存期間、電子データの保存、加算税が重くなる場合)
- 65万円の青色申告特別控除の適用要件|国税庁 確定申告書等作成コーナー
- インボイス制度に関する令和8年度税制改正について(PDF)|国税庁(2割特例の終了時期、3割特例の創設、簡易課税選択届出書の提出期限の特例)
- 令和8年度税制改正特集(インボイス制度)|国税庁
- No.6601 申告と納税(消費税)|国税庁
- No.6496 仕入税額控除をするための帳簿及び請求書等の保存|国税庁
- 「消費税の還付申告に関する明細書」の記載要領(PDF)|国税庁
- 相談窓口のご案内|東京税理士会
- 令和7年度税制改正による所得税の基礎控除の見直し等について|国税庁
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