古物台帳、在留カードはどこまで書き写す? ― 「フリマアプリだから」で書類送検された事案から考える
フリマアプリやネットオークションで仕入れた商品を転売する。スタートアップやEC事業者の副業・新規事業としてよくある形ですが、この仕入れが「古物営業法」の対象になり、本人確認と台帳記載の義務がついて回ることは、意外と見落とされがちです。この記事では、実際にあった書類送検事案をもとに、どこまでの確認・記録が必要かを整理します。
「フリマアプリ側が確認しているはず」という誤解
2023年12月8日、警視庁中野署は、中古販売大手「まんだらけ」の前社長(当時52歳)を古物営業法違反の疑いで書類送検しました。両罰規定により法人としての同社も書類送検されています。
容疑の内容は、2022年12月から2023年1月にかけて、フリマアプリで書籍やおもちゃを買い取る際、売り主3人の身分確認をせず、帳簿にも記載しなかったというものです。前社長は容疑を認めた上で「フリマアプリ側が身分確認をしているので、まんだらけとして身分確認する必要はないと思っていた」と説明したと報じられています。
この事案が示しているのは、プラットフォーム側の本人確認と、古物商自身に課された確認義務は別物という点です。フリマアプリの利用規約上の本人確認をどれだけ厳格にしていても、古物商許可を持つ事業者が古物を買い受ける際は、自分自身の責任で相手方を確認し、台帳に記録する義務が別途発生します。中古品の転売やリユース事業を行うEC事業者にとって、これは仕入れルートを変えるたびに再確認すべきポイントです。
古物営業法が課す2つの義務と罰則
古物営業法は、古物商に主に次の2つの義務を課しています。
- 本人確認義務(第15条):古物を買い受け・交換する際、あるいは売却・交換の委託を受ける際、相手方の住所・氏名・職業・年齢を確認する
- 帳簿等への記載義務(第16条):取引のたびに、取引年月日、古物の品目・数量、特徴、相手方の住所・氏名・職業・年齢、そして確認の方法の区分を、帳簿(古物台帳)または電磁的記録に残す
これらの違反には罰則があり、同法第33条により6か月以下の懲役または30万円以下の罰金が科され得ます。台帳の記載漏れそのものが処罰対象になり得る点は、税務申告の期限徒過などとは性質が異なるので注意が必要です。
なお、対価1万円未満の取引は原則として本人確認・記載義務が免除されますが、オートバイ(部品含む)、ゲームソフト、CD・DVD、書籍など盗品として流通しやすい品目は、金額にかかわらず確認・記載が必要とされています。さらに2025年10月1日には、金属盗被害の増加を受けて電線・グレーチング・エアコン室外機等についても1万円未満の免除が撤廃される規則改正が施行されており、対象品目は今も見直しが続いています。中古品を扱うEC事業者は、自社の取扱品目がこの例外に該当しないか、都度確認しておく必要があります。
本人確認の方法は「対面」と「非対面」で異なる
古物営業法施行規則第15条は、確認の方法を具体的に列挙しています。対面取引であれば、運転免許証・個人番号カード(マイナンバーカード)・旅券(パスポート)・在留カードなど、氏名・住所・年齢を確認できる公的書類の提示を受けるのが基本です。フリマアプリのような非対面取引では、身分証画像と本人の容貌画像を組み合わせて送信を受ける方法や、公的個人認証サービス(JPKI)を用いる方法など、より厳格な代替手段が定められています。
「相手の言葉だけを信じる」「メールでの自己申告だけで済ませる」といった方法は、警視庁も「実効性のある十分な確認方法とは言い難い」との見解を示しており、これだけでは要件を満たしません。
台帳に「何を書くか」は書類の種類ごとに違う
ここが実務でつまずきやすいポイントです。本人確認に使った書類ごとに、台帳へ記載してよい内容・記載してはいけない内容が異なります。
| 確認書類 | 台帳への記載内容 | 番号を書き写すか |
|---|---|---|
| 運転免許証 | 交付した公安委員会名+免許証番号(例:「東京都公安委員会 第1234567号」) | 記載する(免許証番号は記載対象) |
| マイナンバーカード | 確認に用いた旨 | 個人番号(マイナンバー)は書き写し・コピーとも禁止 |
| 健康保険被保険者証 | 確認に用いた旨 | 記号・番号は記載しない |
| 在留カード | 確認に用いた旨(記載範囲は要確認) | 一次情報での明記を確認できず |
運転免許証は番号ごと記載する一方、マイナンバーカードや健康保険証は記号・番号の書き写しそのものが禁止されている、という非対称なルールになっています。「本人確認書類だから、番号まで含めて全部控えておけば安全」という発想は誤りで、書類の種類によっては番号の書き写しが法令違反になり得ます。
在留カードについては、東京都公安委員会や警視庁の公表資料、業界団体の解説ページを確認した範囲では、在留カード番号の記載可否を明記した記述を見つけられませんでした。氏名・住居地・在留資格などの記載事項は運転免許証と同様に確認資料として扱われる一方、在留カード固有の番号(在留カード番号)まで台帳に書き写すべきかどうかは、本記事の執筆時点で一次情報から断定できません。この点は所轄警察署の生活安全課、または古物商許可の手続きを行った行政書士に個別に確認することをおすすめします。
よくある誤解 Q&A
Q. フリマアプリやオークションサイトが本人確認をしているなら、買い取る自分(古物商)は確認しなくてよい?
いいえ。まんだらけの事案がまさにこの誤解によるものです。プラットフォームの利用規約上の確認と、古物営業法が古物商に課す確認義務は別の話です。プラットフォーム経由の仕入れであっても、古物商自身が本人確認と台帳記載を行う必要があります。
Q. 迷ったら念のため提示された身分証の番号を全部書き写しておけば安全では?
そうとは限りません。マイナンバーカードの個人番号や健康保険証の記号・番号は、書き写しやコピー自体が禁止されています。「多く記録しておけば安心」ではなく、書類ごとに記載してよい範囲が決まっている点に注意してください。
判断軸(実務チェックリスト)
- 自社の仕入れ・販売の形態が古物商許可の対象になっていないか(中古品の転売・リユース事業は該当しやすい)
- 対面取引か非対面取引かで、使える確認方法が異なる(非対面は施行規則が定める代替手段が必要)
- 台帳に記載する項目を、身分証の種類ごとに一覧化し、番号を書き写してよいかを個別に判断する
- 記載範囲が一次情報で確認できない書類(在留カードなど)は、自己判断で番号を書き写さず、所轄警察署に確認してから運用を決める
- 「全部の番号を一律に記録する」運用は採用しない(マイナンバー等では逆に法令違反になるため)
まとめ
古物営業法上の本人確認義務・帳簿記載義務は、プラットフォームを介した仕入れであっても古物商自身に課される別個の義務です。台帳への記載内容は身分証の種類によって「番号まで書く」ものと「番号は書いてはいけない」ものが混在しており、在留カードのように記載範囲が明確に確認できない書類も存在します。判断に迷う場合は、一般論で済ませず、所轄警察署の生活安全課や古物商許可を扱う行政書士に個別にご相談ください。
参考(一次情報)
※ 本記事の情報は2026年7月時点のものです。古物営業法・施行規則は改正されることがあるため、実際の運用にあたっては所轄警察署等で最新の情報をご確認ください。
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